Masuk月額一円。
それが、オーシャン商事と白石澪の間に交わされた、唯一の契約書に記された利用料金だった。 A4一枚の簡素な書類で、澪が自分で作ったものだ。内容はシンプルだ。「白石澪(以下、甲)は、甲が開発した営業支援AIシステム(以下、本システム)の使用権を、オーシャン商事株式会社(以下、乙)に対し、月額金一円にて許諾する。甲はいつでも本契約を解除できる。契約解除から三十日以内に、乙は本システムの使用を停止する義務を負う」 この契約書を会社側で受理したのは、当時の総務部長だ。「月一円なんて実質タダだし、便利なら使えばいい」という軽い判断だった。情報システム部の浅野部長でさえ、正直なところ内容をよく読んでいなかった。 誰も、このシステムが会社の心臓になることを、想像していなかった。 水曜日の午前、澪は部長の浅野に呼ばれた。 「白石さん、週報に書いてたシステムの件なんだけど」 「はい」 「ああいうの、情報システム部でやることじゃないと思うんだよね。営業支援は営業部の仕事だし、うちは保守とインフラに集中すべきじゃないかな」 澪は内心で深呼吸をした。 「申し訳ありません。ただ、あのシステムは私個人の開発で、会社の時間やリソースは使っていません。月一円のライセンスで提供しているのも、そういう理由です」 「まあそれはわかるんだけど」浅野はどこかぼんやりした顔で言った。「なんか俺たちのテリトリーを侵してる感じがして、営業部から何か言われると困るんだよね」 「今のところ、営業部からのクレームはないと思いますが」 「うん、まあ……とりあえず目立つことはしないように」 それだけ言われ、澪は席に戻った。「目立つことはするな」という命令が、彼女のやる気をまたひとかけら削った。 昼過ぎ、蒼真が珍しくフロアに顔を出した。 「澪、来週のプレゼン用のデータ出してほしいんだけど」 「内容は?」 「業界全体のトレンドと、うちのシステムが出してる購買予測の比較。あとグラフも入れて。Powerpointで」 澪は少し考えた。「いつまでに?」 「明日の夕方まで」 「それは難しい。明後日の午前なら」 「は?」蒼真の目つきが変わった。「システムから引っ張るだけじゃないの?そんなに時間かかる?」 「データを整形して意味のある形にする必要があります。今日は別の作業も――」 「別の作業って何?PCの設定とかでしょ。プレゼンのほうが優先度高くない?」 澪は黙った。PC設定「とか」ではない。今日の午後はサーバーのパッチ適用があり、それを後回しにすれば明日以降のシステムに影響が出る。でも蒼真にその説明をしても、伝わらないだろうと澪は知っていた。 「……わかりました。明日の午後に出します」 「最初からそう言えばいいじゃん」 蒼真は踵を返し、去っていった。 その夜、澪は残業してプレゼン資料を作り上げた。 十五ページの資料には、AIが分析した業界トレンド、顧客の行動パターン、最適提案タイミングの分布グラフ、競合他社との比較チャートが盛り込まれていた。 翌日、蒼真に送ると、午後に返信が来た。 「いいね。使う」 それだけだった。礼の言葉はなかった。 翌週、そのプレゼンが成功したと営業部の坂本から聞いた。大型案件の第一次提案をクリアし、次のステップへ進んだという。蒼真は社内で「さすが久我さん」と称賛されていた。 澪のことは、どこにも出てこなかった。 (それでいい) と思いながら、本当にそれでいいのかと問い返す自分がいた。 その夜、梓から珍しくメッセージが来た。 「澪、一個聞いていい?蒼真さんって、あなたがAI作ってるの知ってる?」 「知ってる。付き合う前から」 「それで?感謝されてる?」 澪はしばらく考えた。感謝。その言葉を蒼真から聞いた記憶が、正直なところ薄かった。 「……気にかけてくれてると思う」 「それ、感謝とは違うよね」 澪は返信できなかった。梓は続けた。 「あのさ、これ言うか迷ったんだけど。今日、営業部の飲み会の後に廊下で蒼真さんと加賀さんが話してるの、聞いちゃって」 「加賀さんって営業二課の?」 「そう。加賀さんが『久我さんのシステムってうちのSEが作ったやつですか?』って聞いたら、蒼真さんが笑いながら言ってた。『あれ、澪が作ったとか言ってるけど、SEなんてパソコンに詳しい事務員だろ?女が技術職とか笑わせるな。ちゃんとしたエンジニアに頼めばもっといいの出てくるよ』って」 澪の指が、画面の上で止まった。 パソコンに詳しい事務員。女が技術職とか笑わせるな。 二年かけて作ったシステムが、そう表現された。 「……梓、ありがとう」 「怒っていい。むしろ怒って」 怒れたらよかった、と澪は思った。でも怒りより先に、じわじわと広がる虚しさがあった。 澪はスマートフォンを置き、ダッシュボードを開いた。今日も正確に動き続けているシステムが、目の前にある。 (私が作ったあなたは、ちゃんと動いてる) そう思ったら、少しだけ救われた。 でも、それだけでいつまで持つだろう。 その問いに、澪はまだ答えられないでいた。第127話 影の中の協力者「澪さん、いつも本当に助かります! この『ルミナス・グリッド』の最新行政パッチのおかげで、デジタル庁のセキュリティ負荷が大幅に削減できましたよ!」ネクスト・AIの応接室。爽やかな笑顔で澪に深々と頭を下げているのは、政府デジタルインフラ推進室の若き技術顧問——神楽坂(かぐらざか)蓮(れん)、20歳。彼はかつて国家が極秘裏に進めた極限人財育成計画「50人のサーキュラー計画」に選ばれた天才児(ギフテッド)の一人であり、唯一「政府公認」として表舞台での活動を許された規格外の存在だった。「いえ、神楽坂さんが提案してくれた官民連携プロトコルのアイディアが素晴らしかったからです。おかげで今日も、早く帰って陽ちゃんとお風呂に入れそうです」澪が屈託のない笑顔で応えると、隣に座っていた怜央が鋭い眼光で蓮をじっと見つめた。「神楽坂顧問。政府主導のデジタル網へのルミナス連携は順調だが……先日現れた『アニマ』と名乗るギフテッドたちの不穏な動きについて、政府側に何か情報は入っていないか?」「ええ、僕の方でも独自に追っています」蓮は少し困ったように眉を下げ、申し訳なさそうな表情を作ってみせた。「ルナたち『50人のサーキュラー計画』の脱走組は、僕にとっても元同胞であり、過去の遺物です。彼女たちが澪さんやネクスト・AIに迷惑をかけているなら、僕が責任を持って穏便に処理してみせます。澪さんはどうか、お子さんとの温かい日常を大切にしてください」「ありがとうございます、神楽坂さん。本当に頼もしいです!」笑顔で感謝を伝える澪。——だが、二人はまだ何一つ気づいていなかった。神楽坂蓮という青年が浮かべる「完璧な善意の笑顔」の裏側に、どれほど恐ろしい企みが隠されているかを。その夜。陽を寝かしつけた後、澪と怜央はリビングで静かに紅茶を飲みながら、日常のウイルス退治のログを確認していた。「神楽坂さんが裏で警戒してくれているおかげで、行政インフラを経由した『アニマ』の軽微な悪戯も、すべて未然にブロックできているね」「……ああ。非常に優秀な男だ。だが……」怜央は紅茶に口をつけながら、一瞬だけ思索に耽る。「50人のサーキュラー計画の生き残りでありながら、あれほど素直に国家に従順なものだろうか」「怜央さんたら、考えすぎですよ。神楽坂さんは本当に親身になって手
第126話 離乳食と未知のプロトコル「あー……あむっ!」「陽ちゃん、すごい! ほうれん草のペースト、残さず食べられたね!」港区の鷹司邸。朝の柔らかな光が差し込むダイニングで、澪はパステルカラーの離乳食スプーンを手に、愛おしそうに陽の口元を拭っていた。「澪、コーヒーを淹れたよ」「あ、ありがとうございます、怜央さん!」エプロン姿の怜央が、完璧な温度で抽出されたエスプレッソをテーブルに置く。世界規模のセキュリティ企業を率いる冷徹なCEOも、家の中では妻を労わり、我が子の成長を温かく見守る一人の父親だ。そんな穏やかな家族の朝の空気を切り裂くように、テーブルの上の端末が「チリン……」と可憐な鈴の音を鳴らした。ディスプレイに浮かび上がったのは、昨日届いた悪戯のような幾何学模様。しかし、今回は模様が生き物のように蠢き、離乳食のレシピアプリの裏側へとそっと滑り込んでいく。WARNING: UNKNOWN BIOLOGICAL-LIKE CODE INJECTED.「……っ!」澪の目が素早くエンジニアのそれに切り替わる。スプーンを置き、すさっと左手で抱っこ紐を引き寄せて陽を抱きかかえながら、右手で瞬時に端末の仮想キーボードを展開した。「またあのコードです……『アニマ』。今度は東京の家庭用スマート家電ネットワークの『余剰電力』だけを狙って、侵入してきています」「生活インフラの末端か。大規模なシステム破壊ではなく、意図的に『日常の隙間』に入り込んできているな」怜央も一瞬で表情を引き締め、澪の背後に回ると、その肩をそっと支えながら画面を覗き込む。「被害規模は?」「実害はありません。ただ……トースターの焼き加減が少し焦げやすくなったり、お掃除ロボットの巡回ルートがハート型を描くようになったり……まるで、子供が落書きをして面白がっているようなコードです」「……人を舐めた真似を」怜央の漆黒の瞳に冷ややかな光が宿る。「だが、油断はさせるな。攻撃の意図が見えないサイバー兵器ほどタチの悪いものはない。ブラック・レギオンに送電網のバックアップ出力を——」「ううん、怜央さん。大丈夫です!」澪は陽をあやしながら、トントンと軽快なリズムでキーボードを叩いた。「このコードを書いた子……ものすごく頭が良いけれど、精神的にとっても『甘やかされたがっている』気がします。ロ
第125話 蠢く「天才」たちの領域ヨーロッパを揺るがしたヘキサゴンとの死闘から、さらに一年——。ネクスト・AIが主導する世界規模の平和維持ネットワーク『ルミナス・グリッド』は、人類のあらゆるインフラを完璧な調和の下で保護し、世界はかつてない平穏と発展の時代を迎えていた。鷹司財閥の最高幹部としての重責を果たしつつ、澪と怜央、そしてすくすくと育つ陽の三人は、温かな家庭の幸せを噛み締めていた。……だが、デジタル世界の極限の安寧は、ある「異分子」たちの退屈と狂気を呼び覚ますこととなる。「ねえ、見た? ネクスト・AIの『ルミナス・グリッド』。完璧すぎて、反吐が出るほど退屈なんだよね」ネオンが不気味に揺らめく地下の極秘実験室。 モニターの前で足を組み、キャンディを舐めながらあくび噛み殺す少女——白銀の髪に異彩を放つオッドアイの瞳を持つ14歳の天才少女、ルナ。その背後には、世界中の国家や企業から「存在しない」として追放された、生まれながらの規格外の能力を持つ少年少女たち——通称【天才者(ギフテッド)】が集っていた。「ヘキサゴンだかロシアのカオス暗号だか知らないけど、大人の作ったシステムなんて、ただの理屈と過去の焼き直し。私たちが本気を出せば、あんなおもちゃ、一瞬で書き換えられるのに」「……ルナ。鷹司澪は、旧時代の天才・白石由紀子の娘だ。彼女の構築したコードは、理論上スキがない」影の中から声を発したのは、18歳にして数理物理学の未解決問題をすべて一人で証明し尽くした天才青年、カイ。「スキがない? だから面白いんじゃない! 完璧な数学的調和で作られた『ルミナス・グリッド』に、私たち『存在してはならない天才』の感性をぶつけたら……どんな綺麗な花火が打ち上がると思う?」ルナの指先がキーボードの上を優雅に滑る。そのコードは、既存のプログラミング言語とも、カオス理論とも異なる——脳の神経伝達物質のパルスをそのままデジタル変換したような、前代未聞の「生体感性プロトコル【アニマ】」。「さあ、始めようよ。世界で一番愛されてる『社内SE上がりのお姫様』に、本当の天才ってものを教えてあげる」——チリン。ネクスト・AI本社のCTOオフィスで、澪のプライベート端末が異様な高周波音を鳴らした。「……何……これ……!?」画面に映し出されたのは、攻撃でもハッキングでもない。
エピローグ 家族の明日と未来の輝きスイスでの壮絶な激闘と「ヘキサゴン」の完全解体から、一年が経過した。秋晴れの心地よい風が吹き抜ける、東京・港区の超高層タワー。ネクスト・AIの本社CTOオフィスでは、優しい光が差し込む大きなデスクの上で、幼い笑い声が響いていた。「まんま! ぬーぬー!」「ふふ、陽ちゃん。それは『ルミナス・グリッド』のホログラムだよ。壊さないでね」二歳を迎えた陽が、澪の膝の上で楽しそうに手を伸ばし、空間に揺らめく光のノードを無邪気に叩いている。すっかり言葉を覚え始めた陽の愛くるしい姿に、澪の頬が緩みっぱなしだ。中国、そしてヨーロッパを揺るがした世界規模のサイバー戦争の嵐は去り、現在『ルミナス・グリッド』は世界中の通信インフラや医療・交通システムを支える「真の平和の盾」として定着していた。ガシャリとドアが開き、仕立ての良いスーツを纏った怜央が入ってくる。「澪、そろそろ役員会……と思ったが、陽が邪魔をしていないか?」「怜央さん! 全然大丈夫ですよ。陽ちゃん、将来はエンジニアになるのかなって、今から楽しみにしているんです」怜央は柔らかい笑みを浮かべると、歩み寄って陽を抱き上げ、澪の腰にそっと手を添えた。「俺としては、母さん譲りの天才的な頭脳を持ってくれるのは頼もしいが……あまり根を詰めすぎて、澪のように社内SE時代に無茶をしないかだけが心配だな」「もう、怜央さん! その節は大変お世話になりましたけど!」澪が頬を膨らませると、怜央は心底愛おしそうに澪の唇へ軽い口づけを落とした。かつて、身勝手な元婚約者と悪徳な元勤務先に技術を搾取され、捨てられたしがない社内SEだった鷹司澪。自らが作ったAIを止めたことで元勤務先は自業自得の崩壊を迎え、そこから始まったのは、世界最強のCEO・鷹司怜央との運命的な出会いと、世界の命運を賭けた戦いの日々だった。トラウマを乗り越え、母の遺した過去と向き合い、自らの手で掴み取った本物の愛と絆。「さあ、行こうか。世界が待っている」「はい、怜央さん!」陽の小さな手を握り、怜央の隣で堂々と歩き出す澪。かつて暗闇の中にいた少女は、今、愛する家族と共に、どこまでも続く未来の光の中をまっすぐに進んでいく——。
第124話 創世(ジェネシス)の光『ルミナス・グリッド最終浄化シークエンス【創世(ジェネシス)】——発動』澪の澄んだ声と同時に、ネクロ・コアのメインポートを通じて、純白のデータ濁流が飛行船『レヴァイアサン』のサーバー室全体へと解き放たれた。不吉な血の赤色に発光していた巨大サーバーのインジケーターが、瞬く間に美しい澄み切った青へと塗り替えられていく。「な……何が起きているの!? ネクロ・コアの制御権が……上書きされていく!?」司令室のメインモニターに押し寄せるエラーとデータ変換のログに、ヴィクトリアは金縛りに遭ったように凝然と立ち尽くしていた。澪が放った『創世』プログラムは、ネクロ・ネットワークを単に破壊するものではなかった。ヘキサゴンが欧州全土の通信インフラに巻き付けていた「悪意の寄生コード」だけを精密に剥離・消滅させ、同時に分断されかけた社会インフラの通信プロトコルを元の正常な状態へと即座に自己修復していく、究極の「データ浄化」だった。『……警告解除。欧州主要都市の電力網、医療ネットワーク、交通管制……すべて正常値へ復旧。通信障害、全エリアで解消されました』コマンドセンターのモニター上で、黒く塗りつぶされていたパリ、ベルリン、ロンドン、ジュネーブの都市マップが、次々と眩い光を取り戻していく。「やった……! 欧州のインフラを……世界を守れた……!」澪は溢れ出る涙を拭おうともせず、画面越しに怜央を見つめた。「怜央さん! 接続完了です! ネクロ・ネットワークは完全に解体され、もう二度と暴走することはありません!」「ああ、見事だ、澪。君の誇り高き技術が、世界の暗闇を照らしたんだ」サーバー室でプラグを抜いた怜央は、優しく微笑むと、鋭い足取りで飛行船の最上階——司令室へと向かった。バシャアンッ!重厚な扉が叩き割られ、怜央が司令室へと足を踏み入れる。静まり返った室内で、膝をついていたのは側近たちだけだった。部屋の奥、ガラス張りの大窓の前に、ヴィクトリア・フォン・ハプスブルクが一人、優雅に背を向けて立っていた。「……見事ですわ、鷹司CEO。そして、鷹司澪……」ヴィクトリアはゆっくりと振り返った。その顔には敗北の屈辱ではなく、どこか憑き物が落ちたような、冷たくも美しい笑みが浮かんでいた。「力による暴力も、過去の呪縛も超えて……あなた方は自分た
第123話 竜の降臨暴風雨が吹き荒れるジュネーブ上空三千メートル。闇に紛れて飛行船『レヴァイアサン』の巨大な外甲板へ滑り込んだのは、鷹司財閥が誇る最強の暗躍部隊「ファントム」と、その先頭に立つ鷹司怜央だった。漆黒のタクティカルスーツに身を包んだ怜央の瞳は、猛禽のように冴え渡っている。「目標、中央メインサーバー室。これより突入する」『了解。澪様との同期回線、維持されています』インカムから届く澪の声が、嵐の耳鳴りを切り裂いて怜央の耳に届いた。『怜央さん……! 敵の防衛システムが外郭ハッチをロックしようとしています! でも大丈夫、こちらからハックして強制開錠します!』タタッと澪がコマンドを叩き込むと同時に、厚さ三十センチの特殊合金ハッチがプシューッと白煙を上げて開放された。「助かる、澪。……行くぞ!」一斉に船内へ突入するファントム隊。だが、重厚な通路の先で待っていたのは、ヘキサゴンが誇る強化外骨格(パワードスーツ)を身に纏った最精鋭の私設軍隊だった。「侵入者だ! 撃てぇっ!」ハイテクアサルトライフルの一斉射撃が狭い通路に火花を散らす。「下がれ」怜央は低く命じると、自ら前線へ躍り出た。敵の銃弾の軌道をコンマ数秒の体動で見切り、最小限の動きで回避。驚愕する敵兵の懐へ瞬時に滑り込み、衝撃波を伴う凄絶な掌打を胸甲へ叩き込んだ。バキィンッ!強化外骨格が内側から破砕され、敵兵が吹き飛んで壁を打ち破る。「な……人間業じゃない……!? 怯むな、囲んで圧殺しろ!」十数名の精鋭が刃を抜いて一斉に飛びかかってくるが、怜央の動きはもはや神業の域に達していた。銃弾を素手で弾き返し、関節を極め、流れるような打撃で瞬く間に敵の防衛線を単身で粉砕していく。まさに、妻と子の未来を脅かす者すべてを噛み殺す「竜」の降臨だった。その頃、司令室。次々と途絶える防衛班の生体反応モニターを見つめ、ヴィクトリアの表情から余裕が完全に消え失せていた。「バカな……! 我がヘキサゴンの特殊部隊が、たった一人の男に……!? 鷹司怜央……あれは人外の化け物ですか……!?」側近が恐怖で歯をガタガタと鳴らす。「ヴィクトリア様! ネクロ・コアのメインサーバー室の前まで突破されました! 物理障壁の閉鎖を——」「無駄よ!」ヴィクトリアは握りしめたワイングラスを床へ叩きつけた。パリン







